「ありがとう」

〜てあて在宅マッサージ 松戸〜


 約三年前、てあてに入社して間もない頃に担当することになったSさん。山籠もりをしている仙人の様な風貌(職業は画家?)口数は少なく、出る言葉は『大丈夫』『もういいよ』『ありがとう』くらい。重度の糖尿病で週三回の透析のせいか、身体はいつも気だるそう。訪問するとベッドからズレ落ちたような格好で、両膝を曲げてテレビを見ているか、寝ているか。相撲がお好きなようで、稀勢の里関の取り組みだけは目を見開いていました。
 施術は主に股関節と膝関節の可動域の維持・拡大。そのために行うストレッチでは痛みを感じさせてしまうと『もういいよ』と終了に、そのため、施術中は常にSさんとにらめっこ状態、眉毛をひそめたら慌ててストレッチを緩める。という毎回シーソーゲームのよう。そんな緊張感の中での施術に、私自身『Sさんに効果的な施術が出来ているのか?』『果たして、施術自体を喜んで貰えているのか?』というジレンマに陥っていました。
 しかし不思議と訪問が中止になることはありません。いつも『もういいよ』と言われ施術が終わり、『Sさん、また来ますね』と声をかけると小声で『ありがとう』と軽く手を挙げて応えてくれました。
 そんな最中に入院、翌日に突然のご逝去。コールセンターからの連絡に涙が溢れ出てきました。今の仕事について初めての経験でした。
 思えば、施術中は度々拒否がある方でしたが、施術を拒絶することは決してありませんでした。透析で毎日辛いお身体にも関わらず、亡くなる直前まで我々の施術を受け入れていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。施術者として沢山のことを学ばせていただきました。
 今は天国のSさんに『ありがとう』を伝えたいです。

松戸院 西村剛

※原文のまま