月刊てあて「特集」

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2014年10月26日<62号(2014年10月)>

「生きていて良かった」という朝から毎日が始まります

  • 担当マッサージ師/中央在宅マッサージ 所沢院 井上 祐一/千田 康之
  • レポート    /中央在宅マッサージ 相談員 間 明日香
「生きていて良かった」という朝から毎日が始まります
「昨日ね、髪を刈ってもらったんですよ。伸びていたら写真撮るのにみっともないでしょう」。マッサージも終えて、一段と磨きがかかった男前ぶりです。左は担当マッサージ師の井上祐一、右は千田康之。

K・Tさん(75歳)は、3年前に肺気腫で入院中に脳梗塞を起こしました。後遺症を抱えながら、その後も入退院を繰り返しました。しかし、Tさんは昔ながらのこんにゃくづくりの技術を持ち、注文があれば、今でもこんにゃくをつくると言います。身体の不自由と上手につきあいながら、毎日を懸命に生きています。

75歳の職人の誇り

75歳の職人の誇り
工場の片隅に掛けてあるレトロな電話機。昔からずっとこれで注文を受けてきました。まだまだ現役の働きモノです。

「デイサービスというのに、私も行ってみたいなぁと思うけれども、注文の電話も入りますしねぇ」と、小中学校からの発注書や献立一覧表を見せてくださいました。
学校給食の注文が来れば、1回で、1600枚のこんにゃくを作ると、Tさんは言います。
「昔はその倍くらい作っていました。若い頃は、どうってことなかった階段も、今は歩くのがやっと。足がパンパンになってしまいます。それでも、注文が入るのはありがたいことですから」。
しかし現在は、ほとんど作業することができないTさんです。
「今ではもっぱら電話番が私の仕事ですよ」。
「機械も昔の道具だからメンテナンスが大変!」と、Tさん。
ところてんを押し出す突き出しという道具のことや、黒いこんにゃくには海藻が入っている事など、長く糧としてきた仕事への愛着と誇りが、そこにはありました。

「結局ね、自分でもなるようにしかならないし、成り行きまかせですよ。」/Tさん

「結局ね、自分でもなるようにしかならないし、成り行きまかせですよ。」/Tさん
本当に身体が痛くて仕方がないときは、マッサージ師の到着に「待ってました!」と声を出してお迎えします。「おかげさまで生きながらえています」

一日一日を懸命に

一日一日を懸命に
工場内には、大きなタンクや水槽が配置されています。健康食として注目されているこんにゃく。学校給食用の注文の他に、直接買いにくるお客様も多いと言います。

若いころから懸命に働いてきたTさんですが「おいしい肴とビールで一杯が本当は楽しみなんだけどね」と笑います。
「料理本もずいぶん読んで研究しましたよ。『居酒屋やれば』なんて人からよく言われました」。
今は手が不自由になり、気持ちはあるものの、思うように料理ができない、はがゆい毎日を送っています。
「結局ね、自分でもなるようにしかならないし、成り行きまかせですよ」。
「夜寝て朝目覚めて、あぁ生きていた、良かったって。本当にそんな日々を繰り返しています」。
それでも、ある程度耳が聞こえ、目が見えるから助かっているとTさん。
「皆様のおかげですね!」。
すべての現実を、潔く受け止めた人の、優しい笑顔がそこにはありました。