今月の特集
2026年1月1日<197号(2026年1月)>
絵と言葉の軌跡── ともに歩いた16年、そしてこれから
- 197枚の表紙を紡いだ心を灯す絵手紙。感謝を胸に、島崎昌美さんの見つめる“これからの絵手紙”について貴重な思いを語ってくださいました。
自然の生命力と心をうつす絵手紙
かつてグラフィックデザイナー、画家として活躍していた島崎昌美さんは、1997年の脳梗塞をきっかけに”絵手紙“に出会いました。そこから奇跡のようにご縁が繋がり、2009年8月より『月刊てあて』の表紙絵を担当していただくこと約16年。届けてくださった絵手紙は197枚にのぼります。ご自身の病気や介護と向き合いながらも、その経験を「感謝」の言葉にのせ、四季折々の草花と共に描き続けてきました。静かな生命力を宿した絵手紙は、読者の心に寄り添い、励ましとなり、日々を照らす灯のような存在でした。
「ジャガイモや玉葱を20年以上描き続けているけれど、今は自分の体と重ねている部分が多くあります」。そう語るように、野菜や花々に自らを映し込み、等身大の言葉をそっと添えてきました。2024年刊行の『絵手紙エッセイ自画像』でも、「画材探しが面倒だから動かないのではなく、ひとつの画材にいつまでも留められ、繰り返し呼び戻される。私にとっては必然──」と語られているように、身近にある素材に導かれるように、心の声をすくい上げる。島崎さんの絵手紙は、そんな心の対話から生まれているのです。
繋がる 広がる いつまでも
現在の島崎さんの一日は、朝のストレッチから始まります。体調の良い日は机に向かい、気の向くままに筆をとる。「昨日描いたものを今朝見ると気に入らないんです。まだまだ未熟だなと反省しているんですけれどもね」と柔らかく笑う姿には、長く描き続けてきた人だけが持つ誠実さがにじみます。その”こだわり続ける姿勢“こそが、絵と言葉に宿る繊細さとあたたかさを育んできました。
来年5月に90歳を迎える島崎さんは「歳を重ねると、『ありがとう』と『ごめんなさい』しかないんですよ」と、日々のなかで”ひとりでは生きられないこと“を実感しているといいます。時には弱音を描くこともありますが、その飾らない言葉だからこそ読み手の胸に深く響くのです。
そして「これからの夢」を伺うと、「花だけでなく、木の実や暮らしと心が深く関わったものを描きたいんです」と微笑みました。今回、ひとつの区切りを迎えますが、これは”さよなら“ではありません。島崎さんの筆が紡ぐ絵手紙の輪も、読者との繋がりも、これからもゆっくり、しなやかに広がり続けていきます。
月刊てあて 編集部
移りゆく季節の中で紡いだ絵手紙の数々
