今月の特集
2012年8月1日<36号(2012年8月)>
事故から21年。また次に向かって。
- 担当マッサージ師/中央在宅マッサージ昭島院 松田和吉
- レポート/中央在宅マッサージ相談員 内田千春
K.Nさん(72歳)が、交通事故に遭ったのは平成3年8月。下半身麻痺となって、この夏で丸21年になります。5年前に、住み慣れた新宿を離れ、夫婦2人でお嬢さまの嫁ぎ先に近い昭島市に転居。今では、「目の中に入れても痛くない」孫との会話を楽しんだり、手先の器用さを発揮して刺しゅう、ちぎり絵、切り絵などの創作活動に励んでいます。Nさんの明るくたくましい第2の人生から、教えられることがたくさんあります。
豊かな感性を創作活動で発揮
Nさんの部屋に入ると、北斎、ミレーなどの美しい絵画が、壁に飾ってあるのが目に入ります。間近で見てようやくそれが刺しゅうで描かれたものだということが分かり、さらに驚かされます。
「最初の一枚ができたときは、あぁ、出来たんだぁ!と本当に感激しました」。ほかにも切り絵、ちぎり絵など、さまざまな技巧を駆使してつくりあげた作品の数々があり、Nさんの芸術的感性の豊かさを雄弁の物語ります。
「中には、一枚つくるのに1年近くかかるものもあります。あまりにもたいへんで、もう次は止めようと思うのですが、出来上がるとまた次をつくりたくなるから不思議ですね」。
知り合いにプレゼントすることもありますが、1カ月ごとに掛けかえて、気分をリフレッシュしているとか。
「孫たちが来ると、5歳になる上の子は、『おじいちゃん、前の絵と違うね!』って気付いてくれるんですよ」と目を細めます。
若いころよりおとなしくなって、今がちょうどいいのかもしれません。/N
車椅子でコンサートにも
釣り、旅行、音楽鑑賞、カラオケなど、事故に遭う前は、とても活動的でした。現在も、自慢のオーディオ機器で美しい音楽を聴き、市民センターで開かれるコンサートには、奥さまと一緒に出掛けて生の音に触れる機会を積極的に楽しんでいます。
奥様曰く「若いころより少しはおとなしくなって、今ぐらいがちょうどいいのかもしれませんね」。
この夏で第2の人生の22年目がスタートします。
悲しみやあきらめなどの負の心はすべて、過去の作品の中に閉じ込めて、今できることの喜びや幸せを感じながら、次に向かって生きてきたNさん。その笑顔の奥には、ダイヤモンドのように強くて美しい心が輝いています。