月刊てあて「特集」

今月の特集

2013年2月1日<42号(2013年2月)>

生きているのは辛いけれども。

  • レポート・担当マッサージ師/中央在宅マッサージ 福島院 本田こずえ
生きているのは辛いけれども。
避難されてからは慣れない土地、慣れない生活でなかなか外へ出られず、体の不調が増えることもありました。一人の時、寂しさから涙が流れることもあるそうです。それでも、私たちに会うとこんなすてきな笑顔で接してくれます。担当マッサージ師・本田こずえと。

東日本大震災が起きてからまもなく2年が経ちます。
今回ご登場のT.S(90歳)は、福島県浪江町で被災。現在は、福島市内の仮設住宅に暮らしています。不自由な体での独居生活は、ヘルパーさんやデイサービスの介助もありますが、心細さはつきないものです。そんな境遇にありながらも、Tさんの優しさと笑顔に、逆に励まされてしまうこともしばしば。家族のような大切な存在です。

現役時代は小学校の先生

現役時代は小学校の先生
趣味はお料理や小物づくり。デイサービスでつくったかわいい和小物とキャンドルを見せてくださいました。

1週間ぶりの在宅マッサージの訪問でしたが、Tさんの肩と背中はコチコチに張っていました。
 理由をうかがうと、昨夜じゃ遅くまで『被災者のみなさまへ』という励ましの年賀状に、何十枚も返事を書いて、ポストに投函してきたと言います。
 「南は沖縄、北は山形から、全国から来ました。個人宛ではないので、きっとどこかで仕分けをして仮設住まいの人に配られたのだと思います。全部は書ききれませんでしたが、
子どもたちから来たものには返事をしてあげたくて」。
 現役時代は小学校の教師をしていて、7つの学校を回り、たくさんの子どもたちの指導に当たっていました。55歳で定年になり、その4年後に、ご主人が膵臓がんで他界。浪江町の1軒家で、三味線を習いながら穏やかな老後を過ごしていたときに被災しました。

震災はもう嫌だし、早く家に帰りたい。でも、あなたたちに会えたのもご縁よ。/S

震災はもう嫌だし、早く家に帰りたい。でも、あなたたちに会えたのもご縁よ。/S
少しでも良くなるようにと、仮設の集会所で行われる体験教室へ参加したりと、からだ作りに励まれています。「こういう筋力トレーニングもありますよ」とお伝えしたことを、ご自分でコツコツと継続されており、下肢が少しづつ太くなってきました。

震災で巡り合えたのも縁

震災で巡り合えたのも縁
Tさんが暮らす仮設住宅。1DKという狭さに「ときどき息が詰まりそうになる」こともあるそうです。

狭い1DKの仮設住宅暮らしもまもなく2年になります。脳梗塞の後遺症で左半身麻痺、腰部脊柱管狭窄症による坐骨神経痛を患い、さらに下肢筋力が低下しているTさんにとっては、スーパーマーケットに買い物にいくのも大変です。それでも、ヘルパーさんまかせにしないで、出来る限りの家事を一人でこなしています。
 「年を取って頭の回転も悪くなり、行動もにぶくなりました。生きているのが辛いと何度も思ったけれども、死んだほうがいいとは思いません」。
 Tさんは、いつも笑顔で私たちを迎えてくれて、帰るときには「事故に気をつけて」と見送りし早く家に帰りたい。でも、あなたたちに会えたのもご縁よ」とも。
 その心の広さ、優しさに、いつも胸が熱くなります。