月刊てあて「特集」

今月の特集

2013年6月18日<46号(2013年06月)>

負けたくないからがんばれる。

  • 担当マッサージ師/中央在宅マッサージ 浦和院 安達 陽季
  • レポート    /中央在宅マッサージ 相談員 荻原 あゆみ
負けたくないからがんばれる。
50年の歳月をともに過ごしてきた奥様のTさんには「感謝の気持ちでいっぱいです」と Hさん。右手はTさんの手を、左手には大切な時計を持って。 (写真はマッサージ師の安達陽季と)

吉永小百合さん主演の映画「キューポラのある街」でも知られる埼玉県川口は、古くから鋳物(いもの)産業で栄えた町です。
  今回ご登場するY・Hさん(80歳)は、川口で卓越した腕を持つ鋳物職人でした。しかし、20年前に彼をおそったのは全身の43%にいたる大やけど。鍛え抜いた強靭な肉体と、誰にも負けない強い心を持ったHさんの闘いは、今もなお続いています。

強靭な体力と精神力

強靭な体力と精神力
部屋に置かれているピアノは、亡くなられたお母さまの思い出。今はお孫さんがときどき弾いてくれます。

「命があっただけでもよしとしなきゃと、医者に言われました。仕事では誰にも負けなかったけれども、やけどには負けました」。
 さらに2年前に腰椎圧迫骨折を起こしてからは、歩行困難な状態が続き、一時は、寝返りさえも打てない時期もありました。
 「体は痛みます。それでも動かさないと動けなくなるから、杖をついて歩く事も自分なりのトレーニングと思ってやっています。昔から何をやっても人には負けたくないという気持ちが強いんです」。
その強さは、精神力だけではありません。
 「野球、卓球、剣道、柔道、空手と、何でもやって体を鍛えてきました。50代になっても二重飛び、三重飛びを、50~60回はスイスイやっていました。だから今でも内臓は丈夫。歯もほとんど自分の歯です」。
 鍛え抜いた強靭な体力もまた、大きな支えとなっているのです。

体は痛みます。それでも動かさないと動けなくなるから。/Hさん

体は痛みます。それでも動かさないと動けなくなるから。/Hさん
マッサージは「痛いけれども、やってもらうと気持ちいい。生き延びた!という感じです」とHさん。

時計のように、これからも

時計のように、これからも
一命をとりとめたおかげで、かわいいお孫さんの顔を見ることができました。
現役時代の表彰状は、がんばってきたことの軌跡。励みになります。

裏表のないご性格で、社交的なHさんは、デイサービスでも人気者です。
 「98歳の男性と将棋をやるんですが、負けてしまうんですよ。上には上がいるもんです」と楽しそうに語ります。カラオケも大好きで、リクエストされて歌うこともしばしばと言います。
 Hさんが、大切にしているという腕時計を、見せてくださいました。それは、川口鋳物協同組合から優秀な鋳物職人として表彰された時にもらったものです。
 「いただいてから40年近くなるのに、1分1秒と狂ったことがないんですよ」。
 やけどと病気と闘い続けて、今年の8月で丸20年。Hさんの人生もまた、1分1秒の時を、これからも、しっかりと刻み続けるのでしょう。