今月の特集
2015年9月30日<74号(2015年10月)>
不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で取り戻した笑顔と元気。
- 担当マッサージ師/中央在宅マッサージ 長野院 金子 真菜美
- レポート /中央在宅マッサージ 相談員 盛田 美由紀

J・Iさんが脳出血で倒れたのは6年前、59歳の時です。定年を半年先に控え、まだまだ続く、長い人生を謳歌したいと思っていた矢先のことでした。そして当時は、話すことも身の周りのこともまともに出来ない、ベッドにほぼ寝たきりの絶望の状態から、今の明るい笑顔を取り戻すまで、闘病とリハビリに努めた濃密な年月がありました。Iさんの闘いは今も続いています。
最初は「ダメ」の繰り返し

今は左手で色エンピツやクレヨンを使って描いています。
キャベツの絵は奥様のお気に入りです。
花や果物、動物などを題材にした美しい絵が壁にいっぱい飾られたリビングルームが、Iさんの生活の中心です。掃き出し窓からはウッドデッキが張り出し、車椅子でも気軽に出られるようになっており、その先には、奥様と一緒に丹精込めて作った庭が広がっています。
絵は、Iさんが毎日リハビリのために、最低1時間かけて左手で描いているものです。

右半身麻痺の後遺症を残しながら、ここまでのことが出来るようになるまでには、想像を絶する苦労と努力を重ねてきました。
作業療法士にすすめられ、エンピツを持ったのは倒れてから1年後です。

「その時は、まだ左手に力がまったく入らなくて、線もニョロニョロで……。うまく描こうとも、ほめてもらおうとも思っていませんでした。ダメだ、ダメだの繰り返しでした」。
「辛い思いで続けたリハビリとしての絵が、今は、生き甲斐と言えるまでに…」

左手が生んだ生き甲斐

Iさんは、武蔵野美術大学を卒業し、東急百貨店でデザインと広報に関わる仕事に携わってきました。奥様のMさんとは、同期入社で出会いました。
「デザイナーを目指していたので絵の勉強はしてこなかったのですが、先日、大学時代の友人に、『学生のときよりうまい!』って言われました(笑)」。
辛い思いで続けてきたリハビリとしての絵が、今は、生き甲斐と言えるまでになりました。
絵を描くことだけではありません。

当初は奥様の介助に頼りきりだった食事や歯磨きなどの身の周りの事も、一つひとつ乗り越えて出来ることを増やしてきました。
「週3回、デイサービスで腹筋500回もこなしています。アスリートなみでしょう」と、笑うIさん。その明るさの中に、不撓不屈(ふとうふくつ)の精神が宿っています。