今月の特集
2017年5月29日<94号(2017年6月)>
一歩無理してやれば二歩になる
- 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ 福島院 菅野 弘明
- レポート /てあて在宅マッサージ 相談員 菅野 陽子
福島県福島市立子山。自然豊かな山々に囲まれ、春風がそよ吹く高丘に、K・Tさん(59歳)のご自宅はあります。
人生には予期せぬことが起きるもの。Tさんを脳出血という病魔が襲ったのは55歳のとき。
瓦ぶき職人として、働き盛りだったTさんは、その困難をどう乗り越えてきたのでしょうか。
多くを語らない、優しいまなざしの中にその答えがありました。
生粋の職人気質
Tさんは、瓦ぶき一級技能検定の資格を持ち、建物の修繕もこなす根っからの職人です。
「中学生の時、すぐ近くに瓦屋さんがあって、そこの親方がすごく面倒見がよくて、学校帰りによく手伝いに行っていたんです。お小遣いもくれたりしてね…」と、懐かしそうに話します。
その後、専門学校で板金加工を習い、地元の工場で職人として働き始めました。
でも20歳の時、父親が亡くなったのを機に実家に戻ってきてからは、あの瓦屋の親方のところに弟子入りし、瓦ぶき職人として 年近く務めてきたといいます。
「目標は、一日一日が楽しければ、身体が動けばいい」/K・Tさん
一日一日を懸命に
平成25年10月25日、その時は何の前ぶれもなくやってきました。
「現場で仕事中に3時の休憩のとき、異変に気付き、右手にも力がはいらず、大工さんが『これはダメだ!』と言って、すぐ救急車を呼んでくれたんです」。
入院でのリハビリは5か月にも及びました。「こうなったのは仕方がないこと。あとはどこまで治るか」と、前向きな気持ちになったというTさん。
今では、左手で日常の大体のことができるようになり、通所リハビリでは、他の患者さんの装具の着脱を手伝ったり、診療所の建物など、どこか直すところがあれば手を加えたりと、親方ゆずりの面倒見の良さも伝わってきます。
「職人は一人でやっていても、仲間との助け合いがなければやっていけない。人が困っている時は手を差し伸べる。お互いさま」とTさんはいいます。
何よりもリハビリに取り組むTさんのその根底にあるものは、「家族に迷惑はかけられない」という、強い意志とやさしさ。
そんな意欲的でひたむきな姿は、多くの人に勇気とパワーを与えています。