月刊てあて「特集」

今月の特集

2022年3月2日<151号(2022年3月)>

在宅マッサージにまつわる感動体験!2022①

在宅マッサージにまつわる感動体験!2022①

 恒例となりました「在宅マッサージにまつわる感動体験!2022」社内コンペティション。今年もたくさんの体験エピソードが寄せられました。それは、てあてのスタッフたちが日々の業務の中で出会った、涙あり笑いあり…の感動体験ストーリーです。時に励まされ、時に和まされ、時に勇気づけられ、それが私たち「てあて」のモチベーションになっています。
 月刊てあてでは、その中から、今月〈151号〉と来月〈152号〉の2回にわたって、てあてのスタッフたちが織りなす感動体験エピソード!をご紹介いたします。(編集部)

「万年筆とハンカチーフ」

  • てあて在宅マッサージ飯能/福井 岳史
「万年筆とハンカチーフ」

 3年程前の話。車イス生活を送っていたSさん。軟口蓋という口内の一部が機能不全で発語は困難。聡明な方でありながら、言葉で伝えられないもどかしさを日々感じていた。
 会話は筆談。いつも愛用の万年筆でノートいっぱいに1週間の出来事を書き綴って待っていた。喜怒哀楽が詰まった文章を読ませて頂くのが私の楽しみでした。
 しかし、別れは突然でした。離れた地域の特養へ入所が決まり、連絡から転居まで訪問はあと1回。しかし、都合で私が伺えず挨拶もできなかった。
 寂しさと悔いを感じていた矢先、Sさんから1通の手紙が届いた。そこには、お礼と新たな環境での意気込みが書かれていた。

 後日、どうしても直接ご挨拶をしたく、Sさんの元へ伺うことができた。サプライズで部屋に伺うと、顔を見るなり号泣されてしまった。
 Sさんは、転居することをわかっていながら直接伝えるのを躊躇って、後日、手紙を送ってくれていたのだ。手紙の文面だけでは感じ取れなかったSさんの気持ちと感謝の思いから、私も自然と涙がこぼれていた。
 間もなく、少し慌てて一つの小さな紙袋を渡された。開けるとそこにはハンカチが一枚。
 もし、もう一度あなたに会える機会があったら渡そうと準備していたと。まるで私が会いに来ることを予見していたかのようだ。
 小さく華奢な身体の中に、とても強く温かい心を持つSさん。お部屋の壁には『いま、今日という日が残りの人生で一番若い日!』という言葉が掲げられていた。きっと、今の状況にも挫けずに前を向いていることだろうと。ふと、思いを馳せながら、今日も温かな施術を届けに患者様のお宅に向かう。
ポケットには、Sさんから頂いたハンカチを携えて。

「伝えてくれてありがとう」

  • てあて在宅マッサージ昭島/寺田 智洋
「伝えてくれてありがとう」

 大脳皮質基底核変性症は、進行性の難病です。S様は初めてお会いした時から全介助、発語は痛い時に「い゛ー」と仰います。目の動きにも意思を読み取る事は困難でした。
 施術開始以来、坐位の保持力が向上した訳でもない。右上肢の筋固縮を緩和できた訳でもない。施術効果は僅か。そう思っていました。
 ただ、どこかしら、力が入るタイミングや、まばたきの様子に「S様は認知する力がある」との認識を、同僚施術者と共有していました。その為、いつも話しかけながらの施術です。
 その日は、丁度、雪がしっかりと降り出していました。施術開始時に、何気なく「窓向きになりますか?」と問いかけると、ゆっくりはっきり「向きたい」と話されたのです。とても驚きました。その為、その日の坐位保持訓練は窓向きで、いつもより長く行いました。
 最後に「雪は見えましたか」とお聞きすると、顔をくしゃくしゃにされながら「ゆきが、みれて、よかった」と言ってくれたのです。10秒かけて絞りだした声は、確かにそう聞きとれました。
 笑顔を見ることはできないけれど、S様の笑顔が、初めて心に浮かびました。心温まった、今年初雪の思い出です。

「娘になったつもりで」

  • てあて在宅マッサージ浦和/吉光寺 純子
「娘になったつもりで」

 有料老人ホームに入居されているS様は、認知症によりコミュニケーションがスムーズとは言えませんが、一人娘のC様とは本当に仲の良い母娘で、C様はほぼ毎日のように面会に行かれていました。しかしコロナ禍で面会ができなくなり、C様はお母様の様子がわからず不安になっていました。
 幸い、施術訪問は継続できていたので、身体状態や会話の内容、表情、室内の様子など、施術後に毎回お電話しC様に報告しています。「母に直接会って、体に触れ、言葉をかけたい」と仰るC様の気持ちが伝わってきて、他人の私が毎週訪問していることが申し訳なく感じて、自然と『娘の気持ちで接しよう』と思うようになりました。
 すると、声掛けに応答があること、笑顔がみられること、端座位が保持出来たこと、一つ一つが大きな喜びとなり、C様への報告にも熱が入ります。ほんの数分ですが、一緒に一喜一憂していると、まるで身内のような気持ちになります。
 しっかりと報告できるよう、五感を研ぎ澄まし、気持ちは朗らかに、施術に向かいます。

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●第140号「在宅マッサージまつわる感動体験!2021」
●第128号「在宅マッサージまつわる感動体験!2020」
●第116号「在宅マッサージまつわる感動体験!2019」
も、是非ご覧ください。