今月の特集
2023年1月31日<162号(2023年2月)>
たくさんの手に支えられて
- 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ水戸 菊川 満
- レポート/てあて在宅マッサージ水戸 鈴木雅大
S.Yさん(89歳)が身体に違和感を感じたのは約20年前。その後、パーキンソン病とレビー小体型認知症と診断され、療養生活を続けています。奥様のS子さんとは、言葉は交わせなくても、うなずく、目をパチパチさせるなどして気持ちを表すSさん。病は進行しても、内面の力強さは衰えることはありません。
20年を病とともに
Sさんは、大学の工学部を卒業し、大手企業で設計エンジニアとして働いていました。スポーツと音楽を愛し、優しくて真面目。定年後、仕事をすべて引退したら、歌好き同士で気の合う奥様と、余生を楽しもうと思っていました。
しかし、60代の後半ごろから、手の震えや、歩くときに足が出にくくなるすくみ足、もの忘れなどの症状が出るようになってきたのです。
「最初は、何の病気かわからずに、『大脳に少し傷がある』といわれ、1カ月くらい点滴を打ったこともありました。それでも病状は変わらず、大きな病院で検査をしたら『パーキンソン症候群』と判明しました」。
その後、パーキンソン病を患い、さらに、レビー小体型認知症と診断。どちらの病気も、根本的な治療方法はなく、症状を緩和する対処療法が中心となりました。Sさんも強い心で病気と向き合っていますが、20年の間に、病はゆっくりと進行し続けています。
「たくさんの人に助けてもらって、今があります」/S.Y
介護はチームワークで
現在は、ほぼ寝たきり状態で、誤嚥(ごえん)の恐れがあるため食事は胃ろうとなり、2時間おきのたん吸引も欠かせなくなりました。
奥様一人での介護には限界があるため、看護小規模多機能型居宅介護事業所(通称「看多機」)を週の半分利用し、自宅と施設の両方で生活を送りながら、週3回の在宅マッサージを行っています。各専門家とタッグを組み、また、お子さんやお孫さんたちも常に協力し、支えてくれています。
82歳まで栄養士の仕事を続けながら、献身的に介護し、寄り添ってきた奥様は、今も、夜中のたん吸引のため、ベッドの横に布団を敷いて寝ています。
「施設から帰ってきた時に『おかえり』というと『うん』とうなずいてもらえるのが、何よりも嬉しいです。瞬きもよくしてくれるんですよ」と奥様。
会話が難しくなってもSさんからの精一杯の感謝の気持ちが、その表情には詰まっています。