月刊てあて「特集」

今月の特集

2023年2月28日<163号(2023年3月)>

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023〈1〉

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023〈1〉

 今年も社内コンペティション「在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023」に、たくさんの体験エピソードが寄せられました。それは、てあてのスタッフたちが日々の業務の中で出会った、涙あり、笑いあり…の感動体験ストーリー。「やさしい心とあたたかな手」を通して、患者様とふれあい、学び、自分たち自身も成長する姿が垣間見ることができました。月刊てあてでは、その中から今月号〈163号〉と来月号〈164号〉の2回にわたって、てあてのスタッフたちをご紹介いたします。

 

「記憶のカケラを呼び起こして」

  • てあて在宅マッサージ 浦和 /細田 清美
「記憶のカケラを呼び起こして」

 この仕事をしていると認知症の方と接する機会は少なくありません。しかし、『認知症』とひと言で言っても「人それぞれで違う」と感じます。そしてときどき、家族の方が思っている以上に、記憶が残っているのではないか?と思うこともあるのです。
 私が訪問していた方でこんな患者様がいました。言葉を発することはあるけれど、寝たきりで認知もあり、家族から「意思の疎通はできない」と説明を受けていました。
 確かにそうでした。しかし、私はその患者様に対してひたすら話しかけ続けました。
 そんなある日のこと、私は部屋に飾られていた1枚の写真を見るように言葉をかけました。それは患者様の若かりし頃、ご主人と写る結婚式の写真。患者様の視線が写真に向いたので、「ご主人は若いころ、随分とイケメンでしたね!」と言葉をかけると、声をたてて笑い、「そうかもね」と私に笑顔を向けて仰ったのです。
 残っている記憶のカケラに触れたような瞬間でした。

 そのことを娘様にお伝えすると、とても驚かれ、一緒に再び話しかけました。すると、患者様は花が咲いたような笑顔を見せ、何とも言えないあたたかい空気がその場に流れました。
 「こんな笑顔、ここ数年見たことがない。先生じゃなかったら引き出せなかった。ありがとうございます。本当にありがとうございます」と、娘様は感動されていました。


 家族や身近な方が認知症になってしまったとき、どうしても「忘れてしまうこと」「忘れてしまったこと」に目が向いてしまうと思います。けれども「忘れていない記憶」も確かにあって。それはその方にとって何か想いがあったり、意味のあることなのかなと感じたりするんです。
 消えてしまう記憶と今も残る記憶。視覚や言葉で刺激をすれば、残る記憶を呼び起こしてどこか不思議で、そして優しい時間を生み出せることもあるのかなと。そう信じて私は話しかけています。「記憶のカケラに届け」と願いながら。
 そして、私がこの仕事を続ける限り、そうやって話しかけていくつもりです。


「幸せな一年」

  • てあて在宅マッサージ 松戸 /玉城 さや香
「幸せな一年」

 施設へ訪問しているY様のお話です。
 コロナ禍の影響で面会へ行けなくなった娘様からのお願いで、居室からテレビ電話をかけることが始まりました。画面に娘様が映ると「元気にしているか?」と、嬉しそうに話すY様の姿は微笑ましく、お父様とのやり取りを伝えてくれる娘様もいつも嬉しそうでした。
 しかし、Y様は日に日に身体機能が低下し寝たきりに。
 傾眠状態の日でも、覚醒されている日でも、娘様との会話は施術後の楽しみであり、何より大切な時間で特別なものだったのでしょう。

 そんなある日、訃報が…。亡くなられる直前、意識が遠のくY様の頭を娘様が撫でていると、笑顔を浮かべたY様。そのまま眠ってしまったのかと思うと、安らかなお顔で亡くなられていたそう。本当に亡くなったとは思えないほど、すやすやと眠っているかのように。

 突然のことで、言葉に詰まる私に娘様から温かい言葉をいただきました。
 「素晴らしい先生にお世話になり、父は幸せな一年を送れました。実は幼少期からずっと厳しく、ケチな父が本当に嫌いでした。けれど、父は施設でのこの一年で、周りの人や家族に『ありがとう』が言えるようになり、人への感謝を伝えることが出来るようになったんです」。

 「人は変われるものなのだ」という娘様の言葉が心に響きました。
 人の温かさと心は、人を変えるくらい大きな力なのだと教えてくれ、当たり前が当たり前にできることが幸せなのだと気づかされました。
 大事なことを教えてくれたY様に私も感謝を届けたいです。


「温もりの手」

  • てあて在宅マッサージ 福島 /濱田 裕一
「温もりの手」

 自宅で長い寝たきり生活を送っているTさん。
 最近は下肢の関節可動域がかなり低下し、冷えも強く、カイロを使用しての温罨法施術を行っています。
 通常、施術はタオルの上からから行い、患部に直接手が触れることは少ないのですが、ある寒い日のこと。Tさんの足がとても冷えていたのでそっと両手で包み込み温めました。
 すると、「あったかいね〜」と聞いたことのない、とても嬉しそうな声を聞くことができました。手を当てることにより「幸せホルモン」や「絆ホルモン」が生成されると言われています。
 温もりが心をつなげる。今までの関係が嘘かのように体の力が抜け、信頼し、体を預けてくださっているのが伝わってきます。
 社名である『てあて』。Tさんにより自分が働く会社に誇りを持つことができました。今では、帰りの挨拶時には私の手をご自身の頬っぺたにあて、なかなか帰してくれないほどです。