月刊てあて「特集」

今月の特集

2023年3月31日<164号(2023年4月)>

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023〈2〉

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023〈2〉

先月〈163号〉に引き続き、今月号〈164号〉では、在宅マッサージにまつわる感動体験!!2023〈2〉をご紹介いたします。 
 

「大きく変わる」

  • てあて在宅マッサージ 福島 /小島 るみ
「大きく変わる」

「大変って『大きく変わる』って書くでしょ?だから今は忙しかったり、辛かったり、大変だって思うかもしれないけど良い方に『大きく変わる』って思えば、頑張れちゃうんだよね」


 私がこの仕事を始めて間もない頃、長年パーキンソン病を患っていたS様にご訪問していたときのことです。
 一人暮らしをされていたS様ですが、病の進行で車イス生活になってしまい、娘様が介護のために近くに引っ越してきました。娘様はご自身のお仕事の傍ら、S様の介護やご趣味の社交ダンスと、とても忙しそうにされていました。
 在宅マッサージご訪問中にも献身的に介護をされている娘様を見て、私は思わず「大変ですね」とお声がけてしまいました。すると、先に挙げた言葉が返ってきたのです。

 S様の病状は進行し、次第にパーキンソン病による身体の強張りや震えが強くみられるようになりました。けれども、辛い病状の中でも、娘様の社交ダンスの大会をいつか見に行きたい、また美味しいものを食べに行きたいと目標を持ち、懸命に、リハビリに励まれていました。

 しかし、残念ながら願いは叶わず、S様はご逝去されてしまいました。お悔やみに伺った際、娘様が「もっと、何か母のために出来たことがあったんじゃないかと思うけれど、そんな風に考えて落ち込んでいたら、一生懸命生きた母に失礼よね」と仰り、明るく振舞ってくださったことをよく覚えています。

 もう何年も前の出来事ですが、それ以来、自分自身大変だと思うことに直面すると、娘様の前向きな言葉を思い出します。上手くいくことばかりではないし、どうしようもないこともあるけれど、大変なこともきっと良い方向に変えることができると。
 S様母娘との出会いで、私の施術者としての人生や考え方も大きく変わりました。これからもたくさんの「大変」を大きく変えて行けたらと思います。

 
 

「あ、り、、、がと」

  • てあて在宅マッサージ 昭島 /木村 大介
「あ、り、、、がと」

 2012年に、脳腫瘍を発症、手術により、右片麻痺と失語症の後遺症を抱えていた患者様。
 懸命にリハビリを続け、できることはご自身でやりながら、趣味のゲームや漫画を楽しみ、過ごされていました。
 しかし、2021年、脳腫瘍再発ーー。

 つい先月までは、杖で元気に歩き、大好きな回転寿司を食べに行ったとお話しされていたのに…。マッサージに訪問させていただいて約10年。
 48歳という若さで急に腫瘍が暴れだし、たったひと月の間に、徐々に歩けなくなり、立てなくなり、寝たきりに。
 そして、最後のマッサージでは、身体を優しく擦ることしかできませんでした。
 失語症と衰弱から言葉を出すのだけで精一杯なのに、

「あ、り、、、がと」と一言。

 こちらこそ、マッサージをさせていただき、ありがとうございました。


「変わらぬハイタッチ」

  • てあて在宅マッサージ 長野 /大崎 智晴
「変わらぬハイタッチ」

 在宅マッサージの仕事では、患者様の訃報や入院のご連絡が入ることは少なくありません。今年の年明けにも一本の訃報が入り、落胆した気持ちのまま訪問に向かっていました。

 そんな中、施設に入所している女性の患者様に、ついその出来事をぼやいてしまいました。
 その患者様には認知症があり、普段は周りの人に興味を持たないご様子で、話も一方的にこちらに話しかけてくることが多いのですが、その日は珍しく「私はずっとここにいるからね」と励ましてくださいました。
 その方にとっては、あまり意味の無い言葉だったのかも知れません。だけど、私は不思議と嬉しくなり、心がとても楽になりました。

 帰り際には、いつもその方とハイタッチをするのがお決まりですが、その日のハイタッチは普段よりもいい音がした気がしました。


「故郷はどちら?」

  • てあて在宅マッサージ 松戸 /相澤 真有美
「故郷はどちら?」

「故郷はどちら?」と質問をするのが好きです。この質問に対し、故郷を嬉しそうに語る患者様の様子を見るのが好きなのです。
 しかし、中には質問に答えることが困難な患者様も多くいらっしゃいます。その中の一人が、Tさんでした。

 口をパクパク動かすことはできるのですが、コロナ対策でマスクをされており口の動きが見えません。意思表示はうなずきと手の振りのみのため、普段からコミュニケーションを諦めているご様子でした。

 思い切って、「故郷はどちら?関東ですか?」と問いかけると、意外そうな表情を浮かべながら、首を縦にうなずいて返してくださいました。

続けて、「南関東?」
うなずきなし。
「北ですね。北関東は3県、では順番に、茨城?」
うなずきなし。
「栃木?」
うんうんと強くうなずく。
「お、栃木県。宇都宮の近く?」
うなずきなし。
「宇都宮より東の地域ですか?」
大きく強くうなずく。
「真岡とか烏山とか?」
目を大きく開き、しっかりうなずく。

「今度、地図を持ってくるので故郷を教えてください」と伝えると、瞳をキラキラさせて、何度も大きくうなずいて応えてくださいました。
 この日、退室する際に、何度も何度も手を振ってくれたTさんの姿をよく覚えています。

 翌週、地図を用意したのですが、訪問直前に施設から状態悪化の連絡があり訪問できず。その後、お亡くなりになられてしまいました。後悔の念とともに、Tさんの嬉しそうな様子を忘れることができませんでした。

 コロナが5類扱いになる今春、栃木県東部へドライブ旅に行こうかと計画中。各地を巡りながら、天を見上げて問いかけてみようかと思います。

「Tさん、故郷はこちらですか?」