月刊てあて「特集」

今月の特集

2023年6月1日<166号(2023年6月)>

立ち止まらずに進むだけ

  • 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ相模原 西村歩史
  • レポート/てあて在宅マッサージ 相談員 平下芙美
立ち止まらずに進むだけ
グループホーム東林間「輝」に入所してもうすぐ1年になります。共同生活にも慣れて、新たな友人たちと歌を歌ったり、運動したり、楽しい毎日を過ごしています。訪問介護の頃から長年親交のある施設長さんと。
■「足の屈伸運動やスクワット訓練などを実施することで、筋力維持および移乗動作の安定を目指しています」担当マッサージ師/西村歩史

 S.Mさん92歳。「S」と読ませる美しいお名前は、信仰のあった出雲神社の神主さんに名付けてもらったそうです。太平洋戦争では、少年航空兵になるため、グライダーの訓練を受けるなど厳しい時代を過ごし、終戦後、貧しかった家庭を支える為に17歳で上京。激動の時代を逞しく生きてきました。
 パーキンソン病を患いながらも昭和に培った強い精神力で病に負けず、今日も機能訓練に励んでいます。

苦労と挫折を乗り越えて

苦労と挫折を乗り越えて
グループホーム東林間「輝」

 澄み渡る青い空に悠々と漂う白いパラグライダー、美しい紅葉の散歩道……。それらの写真は、カメラマンだったSさんならではの渾身の作品です。
「16歳で終戦を迎え、その後上京してから、あらゆる職業にたずさわりました。写真の仕事もその一つでした」。
 日本屈指の豪雪地帯で米どころの新潟県南魚沼郡に、9人兄弟の6番目に生まれました。貧しい家庭に育ち、戦争により学歴も財産もないところから、生きていく道を探すのは、想像を絶する苦労があったはずです。東京や大阪など職業を転々とし、挫折を繰り返しながらも昭和42年、36歳の時に夢だった写真店を開業しました。
「まがりなりにも生活ができるようになったのは、良き知人と良き友人に恵まれたお陰です」。
 しかし、58歳の時にパーキンソン病を発症。年齢とともに進行する病を受け入れながら生活を送っていました。

「好きなことは、ずっと続けていきたいです」/S.M

「好きなことは、ずっと続けていきたいです」/S.M
筋肉の萎縮を防ぐために背中や腰、足を中心にマッサージを行っています。曲がった背中を伸ばす背伸びの運動も欠かせません。「マッサージ後は体が動かしやすくなるので毎回楽しみ!」とSさん。

趣味を楽しみながら

趣味を楽しみながら
パラグライダーの写真は北海道、紅葉と噴水の写真は相模原の自宅近くの公園で撮影したものです。

 昔から手先が器用で、写真をはじめ、絵や陶芸、音楽、詩作など趣味も多く、創作活動に意欲的だったSさん。70歳の時にはご自身の軌跡を綴った自伝を出版しました。
 その後、一人暮らしで訪問介護を受けていましたが、次第に転倒が増えるなど生活が難しくなり、グループホームに入所。施設で仲間も増え、「以前より顔色が良くなり、表情もほがらかになった」と施設長さんは言います。
 若い頃は運動神経が抜群だったことから「今でも運動は同世代の人には負けたくない!」と週一回の在宅マッサージでは、機能訓練に励んでいます。
 激動の時代を経験し、培われた強い精神力が、Sさんの今日の活力となっています。