月刊てあて「特集」

今月の特集

2023年10月31日<171号(2023年11月)>

いつだってあきらめない

  • 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ昭島 豊田美紀
  • レポート/てあて在宅マッサージ 相談員 石川典子
いつだってあきらめない
「人は体が伸びきっているとジャンプできないけれど、一番気持ちが下がっているときは、チャンスなんです。高くいけるぞ!って思っています」。Sさんの強いポジティブ精神が、体の回復に大きく貢献しています。担当マッサージ師の豊田美紀(よしのり)と。

 東京出身のS.Mさんは昭和43年生まれの55歳。5年前にアテローム血栓性脳梗塞を発症し、左片麻痺となりました。現役を退くにはまだまだ若く、一時は塞ぎ込んだ時期もありましたが、決してあきらめない気持ちで、ひとつひとつ「できない」を「できる」に変えてきました。明るく強い心と勇敢さで、今日も一歩ずつ前進しています。

当たり前の生活が一変

当たり前の生活が一変
訪問時に迎えてくれる人型ロボットの「きなこ君」。会話を楽しんだりとご夫妻の癒しです。

 2018年12月の暮れ。それは突然のことでした。
 「仕事から帰宅し、食事をしている時に左側に違和感を感じたんです。朝起きて、トイレに行ったらそのまま立てなくなくなり、救急車で搬送されました」。
 タクシー会社に勤務して20年。翌日にはゴルフ部の忘年会があり、幹事として段取りをすべて終えていたところでした。
 「病院で寝ていても気になっちゃって。ICUから一般病棟に移ってすぐに、『会社の人に電話をして迎えにきてもらって』なんて奥さんに頼んでました」(笑)。
今でこそ、笑い話として話せますが、当時は生死の境目。左半身に麻痺が残りましたが、歩行中心のリハビリを経て、退院したのは翌年の7月。車椅子生活に対応するために家も転居しました。

「まだまだやれる」/S.M

「まだまだやれる」/S.M
いつもは左麻痺側を重点的にマッサージし、その後運動も行います。ですが、取材の日はぎっくり腰の痛みがあり、腰痛の緩和を中心に行いました。「楽になりました!」とSさん。

心のバランスを胸に

心のバランスを胸に
企業の障害者雇用枠を使って、在宅でパソコン入力の仕事も。「小学生くらいのレベルです。リハビリの一環ですね」。趣味は読書。そして時々楽しむ旅行や仲間との時間が励みになっています。
 入院したときに、友人が書画家の高野こうじさんに依頼して書いてもらったもの。Sさんの宝物で、自分の名前にちなんだメッセージが、心の支えになりました。

 誰かの手を借りなければ、何ひとつできない現実に絶望した時期もありました。ですが、辛いリハビリをあきらめずに続け、今では歩行器をつけ、杖を使いながら、ゆっくりと歩くことができるようになりました。
 現在は週3回のデイサービス、週2回の在宅マッサージを行っています。少しでも体を動かしていないと左半身が固まってしまうため、ハードなスケジュールも懸命にこなしています。
 「人って塞ぎこむと、身体にも影響してしまうんです。だから、主治医に車椅子生活を宣告された時も、自分はきっと歩けるようになると思っていました」。
常に意識しているのは、70%の自信と30%の不安だと言います。70%の自信で「まだまだやれる」、30%の不安で「努力をしなければ」という気持ちになるからです。
 前向きな言葉を胸に刻み、今日もしっかりと自分の足で大地を踏み締めています。