月刊てあて「特集」

今月の特集

2024年5月1日<177号(2024年5月)>

兄弟という絆に支えられて

  • 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ所沢:佐野貴志・奥村和也
  • レポート/てあて在宅マッサージ所沢 相談員:間明日香・三好里佳
兄弟という絆に支えられて
施設の近くに住んでいるお兄さんのSさんが毎朝10時ごろに訪問。2人でお茶を飲みながら、兄弟のことや田舎の様子を語り合う時間が楽しみです。お兄さんもまた、Nさんの笑顔から元気をもらっていると言います。
お兄さんのSさんと、施術担当マッサージ師 佐野貴志。

 群馬県赤城山の裾野に位置する農村に、10人兄弟(男7人・女3人)の末っ子として生まれたN.Eさん(73歳)。
 平成19年に脳出血で倒れ、手術を行いましたが右上肢と下肢の麻痺、そして失語症の重い後遺症が残りました。現在は施設で暮らしながら、近くに住むお兄さんと、毎日のようにお茶をする時間を何よりの楽しみにしています。

大家族の中でのびのびと

大家族の中でのびのびと
お姉さんが送ってくれた手作りの木目込み人形、従姉妹のお子様が送ってくれた焼き物などを飾った宝物コーナー。若い頃に心配ばかりかけたお母さんの写真もあります。

 四季折々の美しい自然に恵まれ日本百名山にも数えられる名峰、赤城山の南面にある村で生まれ育ったNさん。5月5日生まれで、鯉のぼりにちなんで「N」と名付けられました。
 早くに父親を亡くしたため、長兄たちの力を借りながら、母親が女手一つで奮闘するという大家族の中で、末っ子としてのびのびと育ちました。「高校生の時は学校から呼び出されたりとヤンチャで、母親を心配させていましたね」。
 高校卒業後、埼玉県内の会社に就職。その後上京し、東京都多摩地区にある市役所に勤めました。
 仕事終わりには、小学生のサッカー指導、休日は草野球とスポーツも盛んに楽しんでいました。

「昔は苦労したけど、今は兄弟がたくさんいるから嬉しいね」/S.E(兄)

「昔は苦労したけど、今は兄弟がたくさんいるから嬉しいね」/S.E(兄)
マッサージでは、右麻痺側を中心に全身の血行促進、関節可動域訓練、立位訓練などを行っています。浮腫がひどい時期がありましたが改善してきています。

立位訓練の時は、発語を促すために必ずNさんご自身が声を出してカウントしています。今では100まで数えられるようになりました。

懐かしい居場所

懐かしい居場所
右片麻痺になって、左手で字を書く難しさを知りました。また指の運動のために習い始めた絵は、何度も市の文化祭に出展しています。

 Nさんが、脳出血で倒れたのは、56歳の時でした。懸命なリハビリに励むも回復が見込めず、32年余り勤めた仕事を退職。一人息子さんは仙台で働いていたため、奥様の献身的な介護を受け、ご夫婦で穏やかに暮らしていました。
 しかしその後、奥様が病気で他界されるという悲しい出来事もありました。
 現在の施設に入所したのは平成23年から。たまたま近くに住んでいたお兄さんが、毎日のように顔を出すのが日課となりました。
 「この『てあて』が出たら、なかなか会えなくなってしまった兄と姉みんなに送ろうと思っています。顔を見てもらえますからね」とお兄さんは言います。
 在宅マッサージを始めてからは約11年が経ちます。立位訓練やスクワットの運動では、辛くて大声を出してしまい、施設スタッフが飛んでくることもありますが欠かさずに継続しています。
 思うように話ができないNさんですが、笑顔という心の言葉で、お兄さんと語り合っています。