今月の特集
2025年3月1日<187号(2025年3月)>
在宅マッサージにまつわる感動体験!!2025〈1〉

今年で9回目となる恒例の社内コンペティションでは、
施術者、相談員、事務員が参加し、51作品が集まりました。
喜びは話すことで倍になり、悲しさは半分になる。
そんな笑いあり、涙ありの物語を今号・次号の2回に渡ってお届けします。
「貴方に出会えて良かった」
- てあて在宅マッサージ昭島/太田麻希

てあてに入社し、在宅マッサージの仕事に従事して半年が過ぎました。
マッサージの仕事は以前から長く勤めていましたが、『在宅』という業態は私にとって初めての経験でした。
日々勉強の毎日でとても充実していますが、どうしても受け入れられないことがありました。それはやはり患者様とのお別れです。
覚悟して入社したつもりが、実際に初めて自分の患者様とのお別れの日が来たときは一ヶ月以上悲しい気持ちが続きました。そんな時に新しく担当になったのが、60代の末期癌の方でした。事前に余命幾ばくと聞いて、内心悲しみに耐えられるだろうかと不安でした。
しかし、会ってみると非常にサッパリとした性格の女性で、私の前では病状を悲観するようなことはおくびにも出さない気丈な方でした。
旅やグルメ番組を見るのが大好きで、身体の自由がきく間は、旦那様と出かけられた時のお話をたくさん聞かせてくれました。
病状は次第に進行し、日に日に衰えて身体の痛みを訴えることも増えていきましたが、私がマッサージをすると、いつもとても喜んでくれました。
ある日のマッサージ終了後、
「ありがとうね、最期に貴方に出会えて良かったよ」と、そうぽつりと言ってくださり、「私もですよ! また来ますね」と返したのが最後の会話になりました。
やっぱりその後は、ただただ悲しくて辛かったのですが、暫くして悲しくて思い出すよりも、別のタイミングでその方を思い出すことが増えていきました。
それは、その方が行った旅行先をパンフレットで見たとき。美味しいと言っていたお店の前を通ったとき。好きだと言っていたお菓子をスーパーで見たとき。いつもお部屋に飾ってあったお花を見たとき。沢山お話した思い出やその方の好きだったものが、いろんなところに散らばっていたことに気が付きました。
そのことに気づいたら、近くにその方がいるように思うことが出来て、心がホッとしました。
それ以降、お別れがきても、悲しみには全く慣れませんが、悲しみを引きずらず、あんなことやこんなことを話したなぁと何気なく思い出すようになりました。
今訪問させて頂いている方や、これから出会う方と沢山のことを語らって、色んな思い出を作っていきたいと思います。皆様、ぜひいろんなお話、聞かせてくださいね。
「記憶に残ったマッサージ」
- てあて在宅マッサージ本社/児玉兆美

私の母は、進行が速い球麻痺型のALSと診断された。母は次第に体が動かせなくなり、ケアマネさんから「是非ここをお勧めします!」とマッサージのご提案を頂いたのがなんと我が社の『てあて飯能』だった。
すぐにマッサージの日程が決定したが、肺炎を起こしてしまい延期に。その間にも病状がどんどん悪化し、マッサージ開始直前に療養病棟への入院が決まった。
どうにか迎えたマッサージ当日。母は言葉は話せなくなっていたが、担当してくださった先生へ嬉しそうに微笑んでいた。入院後、いよいよ指しか動かせなくなった母が文字盤で『まさじ』と指した。「マッサージ?良かった?」と聞くと、『ありがとう』のマークを指した。
母がマッサージを受けたのはたった一回だけだったが、その一回が母にとって大切な一回になった。誰かの手のぬくもりは確かに母を癒していた。
てあての理念に『やさしい心とあたたかな手をひとりでも多くのお宅にお届けできるように全力を尽くします』という一文がある。
たった一回でも母の記憶に残ったマッサージ。ああ、こういうことなんだと亡き母に教えられた。
「3つのお願い」
- あて在宅マッサージ所沢/佐野貴志

いつものようにSさんの施術を行っていると、「ねぇ? 先生は『ちあきなおみ』ご存知?」と聞かれました。
「はい、もちろんですよ」
「昔ね、ちあきなおみが『4つのお願い』って唄を歌ったの。それもご存知?」「はい、知ってますよ」
するとSさん、「私ね、4つとは言わず3つでいいからお願いがあるの」
「え!? 誰にですか?」
「あなたよ、先生よ」
一瞬ドキッとしましたが、「どうぞ遠慮なく仰って下さい」。私がそう言うと「嬉しいわ〜」と可愛らしい笑顔を見せました。
「1つ目は、私の担当変わらないでね」
「はい、もちろんです!」
「2つ目は、私のマッサージしている間は辞めちゃ嫌よ」
「はい、頑張ります!」
「3つ目は、いつも優しい先生でいてね」
「はい、当たり前です!」
89才のSさん、私の母親と1才違いということもあり、患者様と施術者というよりも母と息子のような感覚です。母親には言えないようなことも気軽にお話し出来ます。
また、偶然にも離れて暮らすSさんの息子様も私と同じ年齢でした。まるで自分の息子のように私をみて下さっています。
「お母様を大事にしてあげてね」
Sさんにはいつも言われていました。
しかし、昨年秋に私の母親が天寿を全うしました。親不孝ばかりで何一つ恩返しが出来ませんでした。
Sさんにお伝えすると、涙を流されながら「悲しいけれどお母様は空から先生の事を見守ってくれているわよ」と温かいお言葉を頂き、気持ちが楽になりました。
空の上の母親も「3つのお願いを守りなさいね」。きっとそう言っていると思います。