月刊てあて「特集」

今月の特集

2025年4月1日<188号(2025年4月)>

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2025〈2〉

在宅マッサージにまつわる感動体験!!2025〈2〉

前号に引き続き、感動体験!! 2025〈2〉をお届けします。

「私の名前は…」

  • てあて在宅マッサージ水戸/三木一愛
「私の名前は…」

 「今日は何日でしょう」。
 マッサージも中盤に差し掛かったころ、必ず私から質問をしています。

 その患者様のお返事はいつも、
「そんな難しい質問は分かりません」と仰います。
私はめげずに、その後また質問をします。
「私の名前は何でしょう」と。
「覚えていません」と返事が返ってくるので、
「ヒントは、最初の文字は『み』から始まります」とお伝えすると、患者様は「みかん」と答えます。
「みかんっていうお名前の方はいるのでしょうかね?」と言ってお互いに笑って和やかな時間が過ぎていきます。

 このやり取りは出会ってから約3ヶ月続きました。
 そんなある日。例の如く、いつもの質問をしました。
「私の名前は何でしょう」と。
 すると突然、「三木さん」と答えて下さったのです。驚きと共に、嬉しすぎてこの日は一日中幸せな気持ちで過ごす事ができました。
 

「約束の電話」

  • てあて在宅マッサージ昭島/笠野浩平
「約束の電話」

 98歳になるRさんとの出来事です。
旦那様、娘様を早くに亡くされ、1人で生活していました。

 昨年2月、普段より表情が暗く、事情をお聞きすると、「癌が見つかっていろいろなところに転移していたわ。けれど歳も歳だし治療はせずに痛み止めだけ飲むわ」と仰っていました。

 身内にはお孫様が1人いましたが、仕事をしているので会えるのも2、3ヶ月に一度でした。でも、孫にだけは迷惑をかけたくないと、常日頃から仰っており、癌が見つかる前から様々な施設のパンフレットをもらっては眺めていました。

 その後、今後の事を考え早急に施設入居を考えていた矢先、Rさんの容態が急変しました。全身の浮腫が酷くなり声も出しづらく、呼吸するのが精一杯な状態になっていました。
 そして、施設入居が決まりマッサージは休止となりました。

 施設に入る前、「きっとマッサージは受けられなくなっているだろうけど、最後に挨拶ぐらいはさせてね」と約束していたので、最後にお電話をさせていただきました。
 電話にはお孫様が出て「祖母はもう声は出ないけど、耳は聞こえているので是非最後にお話しして下さい」と。そして、僕は最後に感謝の言葉を全力で伝えました。

 お孫様からは、「祖母はいつも楽しそうにマッサージのお兄さんとの事をお話していました。本当に長い間、祖母の身体の事や話相手になってくれてありがとうございます。最後に声が聞けて祖母も喜んでいます」と話してくださいました。
 電話越しにRさんの顔が浮かび、涙が出そうになりました。

 Rさんにとって、マッサージの時間が良い思い出の一部になれて、本当に嬉しかったです。
 

「人間は動く物」

  • てあて在宅マッサージ水戸/菊川満
「人間は動く物」

 私もそろそろ70歳に近づいており、日々の刺激も減り毎日を平々凡々と生きていますが、お会いする患者様は、いろいろな価値観や身体の悩みを抱えながら生き抜いています。

 ベッドから立ち上がりたい、歩きたい、寝返りを打ちたい、お尻を持ちあげたいなどの願いは、若い年齢の方にとっては当たり前のような簡単な動きと思われます。でも、患者様にとっては、褥瘡や逆流性食道炎等の病と直結してしまう、生死にかかわる問題なのです。

 マッサージの学校に通っている時に、解剖学の先生がいつも口癖のように言っていた言葉があります。
「人間は動物です。動(うご)く、物(もの)と書くんだよ。動かなくなったらダメなんだ」。
 その言葉が印象に残っていて、私は患者様ひとりひとりに、「できるだけ動かしてみましょう」をモットーに施術するようにしています。
 マッサージを通してというよりも、患者様が少しでも発声したり、手足に力を入れることで、身体を動かす手助けができればと考えています。

 施術後、「さっき着られなかった服が、マッサージやストレッチをしたら着られた」などと喜んでくださる患者様のお顔や言葉が、私にとっての感動じゃないのかなと思うようになりました。また、毎日五体満足で動けて、仕事が出来ることが当たり前になっていましたが、私にとって本当は奇跡に値することなのかもしれません。

 もちろん患者様の希望や要望にもお応えしながら、自ら運動するようになるきっかけを提供できる施術者になっていきたいと、そう思いながら今日も訪問に向かいます。
 

「120歳と90歳」

  • てあて在宅マッサージ浦和/吉光寺純子
「120歳と90歳」

 Aさんは施設で暮らす90代の女性です。「年を取って良いところが何もない」とお仰いますが、笑顔で悲壮感はありません。
「Aさんの良いところはたくさんありますよ。笑顔が素敵でお話が楽しくて、お会いすると元気をいただけますよ」とお伝えすると
「ほんと? 嬉しい」と満面の笑みが見られます。

 ある日Aさんが「私はうんと長生きしたいの」と仰るので「人間の寿命は120歳くらいまであるそうですよ」とお伝えすると「じゃあ私も120歳まで長生きしたいわ。どうしたらいいの?」と聞かれました。
「今までどおり笑顔で、ご飯をたくさん食べてくださいね」と答えました。
すると「でも、それだけじゃダメでしょう? マッサージはずっと来てもらいたいわ」
「えっ!? Aさんが120歳になるころには、私は90代ですよ。マッサージ出来ますかね?」と答えると、
「先生なら大丈夫。ずっと元気でいてね」と逆に私を励ましてくれました。
「じゃあ、一緒に頑張って長生きしましょう」。
そう話して、2人で手を取り合った昨年末のエピソードです。