月刊てあて「特集」

今月の特集

2025年8月1日<192号(2025年8月)>

自分らしさを忘れずに

  • 担当マッサージ師/てあて在宅マッサージ松戸 釘野加奈江
  • レポート/てあて在宅マッサージ 相談員 中島久美子
自分らしさを忘れずに
自宅では、ご自身のブログの更新や広報活動の仕事、時には介助者さんたちとお出掛けをして忙しくも充実した生活を送っています。「施術のあとは、『あぁ、気持ちよかった』と『あぁ、楽しかった』が同時にくるくらい、心地よくて楽しい素敵な時間です」。担当マッサージ師の釘野加奈江と。

 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は、全身の筋肉が徐々に動かなくなる病気です。J.Iさんが、ALSの診断を受けたのは6年前の42歳。罹患後、さまざまな壁にぶつかる中で、NPO法人「境を越えて」と出会いました。今では広報を担当し、地域で暮らす重度障がい者が、自分らしく生きるための仕組みを考える団体の周知活動などをしています。

母の言葉が支えに

母の言葉が支えに
美容師を26年やってきたので、ネイルやファッション、メイクは今でも大好きです。ネイルはヘビ年にちなんだデザインです。「ヘビの名前は『にょろり』と『にょろた』2つ合わせて『にょろりーた』です」とユーモアたっぷりのJさん。

 千葉県松戸市出身のJ.Iさん。学生時代、バイト先の美容学校に通う仲間にあこがれ、美容師の夢が膨らみ、17歳で美容師の世界に足を踏み入れました。その後、19歳で妊娠、20歳で出産、28歳で離婚…。苦労もありましたが、お母様の手を借りながら2人の息子さんを育ててきました。
 美容師一筋で働いてきたJさんの右手に異変が起きたのは、2018年5月、41歳のこと。右手の指に力が入らなくなり、少しずつ症状が進行し、2019年9月にALSと診断されました。
「なってしまったものは仕方ない。これからどうするか考えよう。それしかないでしょう」。
 落ち込むJさんの姿を見て、お母様がそう言葉をかけてくれました。この先のさまざまな困難や、落ち込んだ時にこの一言が、Jさんをいつも救ってくれました。

「自分らしく好きなことを大切にできる。そんな生き方が目標です」/J.I

「自分らしく好きなことを大切にできる。そんな生き方が目標です」/J.I
マッサージ中は、目の動作に合わせて文字盤を使ってコミュニケーションをとるため、介助者さんとの連携は欠かせません。施術では、関節可動域訓練や、細かな部位までマッサージを行い、痛みや筋緊張を緩和しています。

人生を変える出会い

人生を変える出会い
進行による舌の萎縮で言葉を発することは難しくなりましたが、透明文字盤やパソコンを使い会話することで、口から言葉を発するよりも素直な気持ちを伝えられるようになったとJさんは言います。

 その後、先輩患者さんのアドバイスを受け、2021年にCVポートと胃ろうを造設。現在は、介助者さんたちのサポートのほか、在宅マッサージや訪問看護等の医療サービスも併用しながらご自宅で生活を送っています。
 ALSには、身体の症状以外にも『情動制止困難(相手の気持ちに取り計らいながらの発言ができなくなる)』と言われる症状があります。この症状に酷く悩まされていた時期にNPO法人「境を越えて」の代表理事の方と出会い、たくさんの相談にのってもらったと言います。それをきっかけに「境を越えて」の広報担当として活動し、かけがえのない学びを得ることができました。
 Jさんの生活に必要不可欠な家族や、介助者さん、法人団体の仲間たちに支えられながら、これからもいくつもの困難を乗り越え「自分らしく生きる」ことを決して諦めません。