かつての戦争体験談
- 2022年8月9日
- 出版物(島崎/その他)
「月刊てあて」156号 みんなの手より
〜在宅マッサージにまつわる感動体験!2022より〜
かつての戦争体験談
てあて在宅マッサージ水戸/北條千鶴
私の祖父は、かつての戦争に出兵し、銃弾が当たった傷だとお腹の傷を見せてくれたことがある。しかし、決して戦場で起きた事は話してはくれなかった。私がまだ幼かったからなのか、思い出したくもなかったのか。とても優しい祖父だったが、それだけは触れてはいけないと感じていた。
患者様の中には、戦争を体験され、マッサージをしながら戦争のお話を伺うことがある。
『都会から汽車で田舎へ行き、着物と僅かなお米を交換してもらい、帰りの汽車に乗っていると、軍人が乗り込んできて、全員荷物を出せと言う。泣く泣くお米を置いてきたのよ』
『工場で作業していると、突然空襲警報が鳴った。皆が一斉に非難する中、腹を空かせた何人かの仲間と作業場に戻り、皆が置いて行った弁当を食べた。すると、B-29が戻ってきて、その仲間たちは弾に当たってしまったんだ』
ご趣味の話など普段の会話と同じように、淡々と、時には笑顔で話される。けれども、映画の話でもなければ、作り話でもない、実際におひとりおひとりが体験されたお話。
そして祖父を重ねる。今だったら、私も大人になったし、時間がじいちゃんの心を癒してくれて、聞ける話もあったのかな。永遠にわからないけれど。
つい話に引き込まれ、揉んでいる手に力が入りそうになるのを密かに加減しながら、こうしてお会い出来た事は奇跡なのではないか。もし、あの時ああだったらと、施術をさせていただいているという感覚に包まれる。戦後、頑張って生きてこられて、働いて働いて、お子様を立派に育て上げられて、少し疲れてしまったそのお身体を、この手で少しでも労われたら‥‥。
今日も冗談を言い合い、時折こぼす愚痴に相槌を打ちながら、マッサージに伺えるこの日常がなんと豊かで贅沢な事かを実感する。仕上げの頸・肩が終わり、てあてノートに本日の施術内容を記入したら終了のご挨拶。お辞儀をする頭の角度がより一層深くなる。